・資格ブーム  介護求人360%増

平成11年11月29日 読売新聞より

 介護保険の導入を目前に、ホームヘルパーなど介護の求人が伸びている。養成講座も花盛りだ。そしてその主力は何と言っても女性たち。ところが、いざ働くとなると、賃金の低さにしり込みする人が少なくない。その理由として「家事の延長みたいなもの」という偏見や、「なまじ稼がない方が有利」な税制の仕組みなどを指摘する声もある。介護は「安い労働」なのだろうか。

 「体をふく時は、寒くないようその部分だけ出して」という指示に、一斉にうなずく40−50代の女性たち。このほど東京都内で開かれたホームヘルパー2級の養成研修にはざっと40人が集まった。民間会社「ベネッセ」が6年前から実施する研修は、今では全国約15ヶ所での講座が大人気。受け付け開始初日で定員が埋まるほどだ。民間に比べて受講料が安い自治体ではさらに人気が高く、東京都主催だと競争率は何と22倍。

 求人も伸びている。転職情報誌「とらばーゆ」9月分(関東版)のヘルパーなど介護職の求人は103件。編集長の河野純子さんは「前年同時期で見ると介護分野の求人の伸び率は360%。女性の人気職業『マスコミ、ファッション、旅行・ホテル』の御三家に食い込んでいる」と話す。

 ところが、求職+求人が、必ずしも就職に結び付いていないのもこの分野。厚生省によるとヘルパーの資格保持者は約38万1千人(97年度末)。実際に働いているのは約13万6千人(同)。ギャップの理由に挙げられているのが低い賃金や雇用の不安定さだ。

 「日本労働研究機構」(東京)がこの春まとめた全国のヘルパー約2300人を対象にした就職意識調査では、身分の安定した正規ヘルパーは22%だけ。賃金は正規ヘルパーが月収15−25万円、非正規だがほぼフルタイムで働く場合は15−20万円、パート型は5万円以下。時給は900−1500円で、経験による上昇はほとんどない。その結果、90%以上が賃金や社会的評価、健康面などで不安や不満を抱いていた。

 東京・田無市の杉本町子さん(51)は2年前から時間給で働く登録型ヘルパーとして働いている。時給950円。仕事は波があり、月収は10万円だったり、泊まり勤務があって25万円だったり。「やりがいはあるけど自活しようと思うととても厳しい。価値ある仕事なんだから自活可能な額にしてほしい」と話す。
 
 介護保険が始まると、サービス料金は30分以上1時間未満の身体介護は4020円、家事援助は1530円前後になる見込み。諸経費が含まれるので手取りはこの70%前後と見られる。一見、普通のパートに比べて高額だが、状態が変化するお年寄り相手で、実労働の結果次第では安定した収入にはなりにくい。「ヘルパーの賃金を上げると保険料も上がってしまうが、ヘルパーが自活できる額にしないとなかなか介護が一人前の仕事とみなされません」と福祉のNPO(非営利組織)を運営する安岡厚子さんは懸念する。

 もう一つ、忘れてはならないのが税制の問題だ。ヘルパーには中高年主婦層の参入が多く、所得税控除や社会保険料免除がきく年収130万円未満で働きたいという声も少なくない。これが賃金を停滞させているとの見方もある。
 龍谷大学経済学部教授の竹中恵美子さん(労働経済論)は、「賃金が低下すれば、その分野で働く人が減って、自然に賃金を引き上げるメカニズムが働くものだが、ヘルパー市場ではそうした現象がない」と指摘。さらに「どうせ、女性がやってる家事の延長みたいなものだろう、という偏見があるし、働く主婦たちにも、控除の枠を超えたら損、という意識がある。介護労働を正当に評価するためには、これが専門性の高い技術職であることを認識し、同時に『女がやるのが当然の仕事』という性別役割分業感覚を改める必要がある」と話している。
  


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