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・動き出す介護保険 <2>
民間参入促す自治体
平成11年9月29日 読売新聞より
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東京・新宿区で今年3月、寝たきり高齢者を対象にした巡回入浴サービス委託事業入札が行われた。参加した10社のうち、落札した東京や横浜の民間企業3社が示した価格は、1回4,000円から4,800円。訪問入浴サービスの委託費の相場は1万5千円だが、それを3分の1以下で請け負うというのだ。
「赤字は覚悟」と、落札した民間業者は語る。「今、行政委託を受注すれば、まとまった地域で何十人という顧客を確保できる。良いサービスをすれば、来年の介護保険スタート後もお客さんになってくれる。」
隣接する中野、杉並、世田谷区などでも、訪問入浴の委託事業は1回当たり3千円から5千円台の安値で、次々と落札された。
東京だけの話ではない。宇都宮市では、巡回型ホームヘルプサービスが、相場の半分以下の1回当たり780円で、東京の大手業者に落札された。
来年4月の介護保険施行を控えて、「福祉ビッグバン」と呼ばれる介護サービスの自由市場化への動きがすでに始まっている。全国各地で行われている受注合戦が、その象徴だ。
介護サービスがほとんどなかった時代に、住民の要望から生まれた非営利の民間団体もいや応なしに競争に巻き込まれている。
87年からヘルパー派遣を手がけてきた東京・多摩地区の民間団体「ケア・センターやわらぎ」では、一昨年から客の利用が減りはじめた。3万時間を超えていた総利用時間が、昨年は2万7千時間。「客を取られている。苦しいがサービスの質で競争したい」と事務局長の石川さんは言う。
このように、都市部での民間事業者の動きが目立つ一方で、新たな民間参入が見込まれない地域もある。
首都圏でも、筑波山のふもと茨城県明野町や丹沢山麓の神奈川県津久井町では、民間企業参入が期待できないため、社会福祉協議会や農協がサービスを供給していく。まして、地方の山間地では、「これまで通り、社会福祉協議会にお願いするしかない」という自治体が多い。
また、民間参入が進む都市部でも、サービス不足が予想される分野がある。
仙台市は昨年度、ベネッセコーポレーション(岡山市)などの民間企業7社が建設する11のデイサービス施設に、建設費と備品費の一部を補助した。総額約9億6千万円。民間の資産形成につながる建設費の補助は、従来なら禁じ手。それをあえて踏み切った背景には、同市のデイサービス施設整備が遅れ、利用待ちの人数が4百人にのぼっていたという事情がある。
土地、建物が必要になるデイサービスは、民間参入が難しい。千葉市の試算によると、介護保険制度開始後のサービス供給量見込みは、ホームヘルプと訪問入浴では住民の利用希望を上回ることが予想される一方、デイサービスでは希望の45%にとどまる。
各県の老人保険福祉計画にあるデイサービスの整備率を見ても、目標の60%台にとどまる県もある。民間誘致の方法が模索されているのは、そのためだ。
岡本・神戸市看護大教授は「利用者の自由な選択のため、また、質の低いサービスを淘汰するためにも、新たな事業者が参入して競うのはいいこと」としたうえで、「質量とも十分なサービスを確保できるように、自治体には、事業者への積極的な情報提供で介護サービス市場を拡大するなど、民間参入を進める努力が必要だ」と指摘する。
「利用者の選択」を基本理念にする介護保険制度の成否は、サービス供給量の確保がカギを握っている。それには、介護サービス需要の掘り起こしやNPO(非営利組織)の活用も求められ、まさに、自治体の「やる気と工夫」にかかっている。
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