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・福祉ビジネス 専門業者と大手提携
平成11年5月1日 読売新聞より
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「うちは零細企業ですが、絶対に大手にのみ込まれませんよ。」こう自信たっぷりに断言するのは大阪府箕面市のハンディネットワーク・インターナショナル社長の春山さん。24歳歳のときに進行性筋ジストロフィー症を発病、首から下の自由が全く利かない。しかし、車椅子の社長として日々、仕事に追われる毎日だ。
「難病になって初めて、患者に喜ばれることをターゲットにすれば、大きなビジネスチャンスがあると気づいたのです。」15年前のことだ。それからの春山さんはユニークな形の介護用食事テーブルや歩行器、巡回訪問入浴車などを次々と開発し高収益を上げている。
商品選択ボタンや取り出し口を中央部に集め、硬貨を一度に入れられる受け皿を設けた「バリアフリー型自動販売機」。春山さんのアドバイスで大塚製薬などが開発したヒット商品だ。車椅子の人や高齢者、妊娠中の女性なども、かがまなくて楽に商品が買える。
春山さんは商品の試作段階から加わり、患者の立場で利便性を追求してきた。障害を逆手に取ったと言われるが、ビジネス感覚が鋭くなければ成功に結びつかない。「福祉産業は儲けるのを嫌うけれども、適正な利潤がなければ本物のサービスになりません」と言い切る。
同社は2000年の介護保険制度のスタートを前に医療・福祉分野の参入に盛んな動きを見せ始めた大手企業とさまざまな業務提携を行っている。昨年10月、リクルート社と病院経営のコンサルタント会社「ジェイケア」を設立、春山さんが社長に就任、対等に事業を進める。また、この夏には日本エアシステムなどと提携して、岩手県の安比高原に要介護の高齢者と家族のための長期滞在型リゾート施設をオープンする計画だ。
リクルート社側からジェイケアに参画した取締役の藤原さんは「医療と介護はこれからの分野。でも、中途半端に入るとつぶれてしまう。私たちにとり春山さんのノウハウは重要です」と率直に言う。介護保険は4兆円市場といわれる。多くの大手企業が参入を目指す中で、実績のある事業所のノウハウに目を付け始めている。
「これまでは自分の思いだけでやってきましたが、これからは先行投資する資金力も必要」と語るのは、ホームヘルプサービス「エルフ」(大阪市)の福田社長。エルフは神戸市にある医薬品卸会社三星堂と提携。神戸と大阪にヘルパーステーションを開設し、神戸市からヘルパー派遣業務の委託を得るなど足腰を強くした。
子育てしながら両親の介護に苦労した体験から、福田さんが在宅介護サービスを始めたのは14年前。現在は43人のスタッフが25人の在宅高齢者を訪問し、家事、身体介護サービスを提供している。また、ヘルパーの研修も行っており、年間売り上げは約7千万円。
一方、年商約2600億円の三星堂は4月に同業2社との合併を発表したばかりで、新会社が発足すれば業界最大手になる。その三星堂が規模がずっと小さいエルフと組むのは「介護の窓口となる医療機関に医薬品だけでなく、介護サービスや情報も総合的に提供できる」(三星堂広報部)というメリットがあるからだ。
ほかにも商社や通信、レンタル企業などが小さな企業をパートナーに新会社を作る動きが進んでいる。
介護の分野に参入しようとする大手企業にとり、有料老人ホームの運営や福祉機器の開発、販売、ヘルパー派遣など間口が広いほどビジネス機会は増す。とはいえ、利益が少ない介護サービスなどは小さな企業のしっかりしたノウハウを利用した方が有利だ。一方、小さな企業は大手企業の信用や資金力を使いたい。そうした両者の思惑が提携の背景にある。
福祉機器店等で組織する関西シルバーサービス協会長の郷上さんは松下電工とモデル的にネットワークを組んだ。同社は昨年、新会社「松下電工エイジフリーサービス」を設立して入浴、介護サービスを展開中だ。また、住宅改造や福祉機器の開発にも取り組んでいる。郷上さんは「松下電工と組めば住宅改造に付随して機器が売れます。在宅介護を進めるには質の良いサービスと同時に介護機器の整備が必要」と提携の狙いを説明する。
小さな企業には盛んな参入姿勢を見せる大手企業への不安があり、大手との積極的な提携も防衛策の1つといえる。郷上さんは「協会メンバーの8割が赤字だが、介護保険を目指してがんばってきた。(大手は)専門の業者をつぶさないことが大切」と牽制する。
民間企業の活発な参入を促すのが介護保険の目的の1つだ。慶応義塾大学大学院経営管理研究科の田中教授は「企業の参入で医療、福祉のお客さま志向が進めば、高齢者のニーズもよりはっきりします。介護分野だけでなく、将来的には要介護にならないためのバリアフリー住宅や家事代行などの生活支援サービスがもっと大きなビジネスになるはず」と期待している。
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