がん治療 広がる選択肢
患者の負担軽く、傷小さく

平成11年1月9日読売新聞より

1.告知と選択

 治療法が多様化するほど、患者自身の選択が重要になる。9割以上の患者にがんを告知している病院の一つ、埼玉県立がんセンターの前総長、武田・埼玉医大客員教授は「治療が進歩しても適用できる範囲や効果に限界がある。自分の病状をよく知っていないと、適切な判断ができない」と告知の必要性を強調。「患者は社会的な立場など一人一人違う。医師との対話の中から、その人に合った選択が生まれる」と話している。


2.内視鏡治療

 腹部や胸部を大きく切る胃がんや肺がんの手術。それが腹腔鏡と呼ばれる内視鏡の登場で、早期がんなら、わずか5o〜1cmの小さな穴を体に開けるだけで行えるようになった。大腸がんでは進行がんでも実施可能で、内視鏡による手術は急増している。
 小さな穴から差し入れた内視鏡で体内の様子をテレビモニターに映し出し、電気メスなどで患部を切除する。日本内視鏡外科学会理事長の出月・埼玉医大教授は「余計な骨や筋肉を切らないので、患者さんの負担が少なく、傷も小さい」と強調する。
 がんが正常組織に潜り込んだ様子を調べ、がんの広がりを判定する超音波内視鏡が普及。
 さらに、手術中の切開や止血に効果的な超音波駆動メスという新兵器も登場、手術がしやすくなった。
 また早期の胃がんや大腸がんでは、口や肛門から内視鏡を入れ、がんをつまみ取る治療も普及している。


3.放射線治療

 放射線は、手術に比べ患者の体の負担が少なく、技術も進歩した。その一つが脳腫瘍などに威力を発揮するガンマナイフ。頭部を覆う金属ヘルメット状の装置から、1oの狂いもない正確な照射を行い、副作用は極めて少ない。昨年、治療中に患者の体の微小な動きに合わせて照射位置を自動修正する放射線照射ロボット「サイバー(電脳)ナイフ」も導入された。
 ただ、子宮、前立腺がんなどでは、放射線は手術に匹敵する効果があるのに、手術偏重なのが実情。治療前に放射線専門医に相談が必要だ。


4.抗がん剤
 94年に認可された塩酸イリノテカンをはじめ、タキソテール、タキソールと、ここ数年で「画期的」と言われる抗がん剤が相次ぎ登場した。発売後、副作用が問題になったイリノテカンは、欧州での大規模な試験で昨年、再発した大腸がんに延命効果が確かめられるなど評価し直された。
 一方、早期胃がんの手術後に再発予防のため使われる抗がん剤は昨年、無効と報告された。どの場合に薬が必要か、情報が重要になる。


5.遺伝子診療

 「生命の設計図」である遺伝子によるがんの診断、治療が注目を集めている。ここ数年で、遺伝性の大腸がんや乳がんの原因となる遺伝子が発見された。信州大学医学部は96年、国内初の遺伝子診療部を設置、家族性大腸ポリポーシスなど一部の遺伝性のがんの診断を始め、早期発見、早期治療を目指している。
 一方、東京大医科学研究所は昨年、がん細胞攻撃にかかわる遺伝子を腎臓がん患者に組み込む遺伝子治療に着手した。

 
  


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